【皮膚科専門医が解説】できもの(老人性イボ・ほくろ・血管腫など)の種類と治療法~皮膚がんの早期発見で覚えておきたいこと!
1. 皮膚にできる‟黒いできもの"
年齢が上がるにつれて、ほくろが大きくなってきた、体にイボができたなど、皮膚にお悩みを抱える女性が増えていきます。私のもとにもお悩みはたくさん寄せられています。
「顔と首に血豆みたいなものが出来て目立ちます」
「昔はなかったのに、首にイボがあってクリームを塗るときにザラザラするし、ネックレスが引っかかります」
「ビキニラインにあるほくろが気になります。3Dシールのようにポコッとしてます」
「背中にできものがあり、ブラジャーをとめるときに痛いです」
「目周りに白い膨らみが出来ていて気になります」
これらは、ほくろやイボ、老人性血管腫、稗粒腫、粉瘤などで、誰でもよく探せば見つかる良性のできもの(腫瘍)です。
ただし、一口に‟できもの"といっても、非常に多くの種類があります。黒や茶色、赤、肌色と色もさまざまで、大きさも1~2㎜ほどの小さいものから、20㎝ほどもある大きなものまであります。
また腫瘍は細胞の種類が何由来かで分類します。まず大きな分類では「外胚葉性」と「中胚葉性」に分かれます。「外肺葉性」は、表皮・毛包・脂腺・汗腺(アポクリン・エクリン)などの上皮性腫瘍と、神経堤由来の神経性に分かれます。
「中胚葉性」は、線維・血管・脂肪・筋肉・リンパ管などが由来です。これらのそれぞれに良性と悪性があり、皮膚科専門医が網羅すべき皮膚腫瘍に関する知識は膨大なのです。また、便宜上、腫瘍の範疇に入れることが多いですが、ほくろなどの母斑は別ジャンルで、上皮系、神経系、間葉細胞系由来に分類されます。
ほとんどのものは良性ですが、その中に悪性腫瘍が紛れ込んでいることもあり注意が必要です。また、良性腫瘍や母斑もゆっくりのペースで大きくなり、年齢を重ねると目立ってきます。
今回は日常的に目にする機会が多い良性腫瘍と代表的な母斑、頻度は少ないですが、注意すべき皮膚がんついていくつかご紹介します。
■ 老人性イボ(脂漏性角化症)
「脂漏性角化症」は、表皮系の良性腫瘍の一種で、老人性イボとも言われるように老化現象の一つです。体質によっては20代の頃から増える人もいます。
少し隆起していて、表面がザラザラ、でこぼこしているのが特徴です。色は、肌色から薄茶色、こげ茶色、暗黒色など多岐にわたります。
紫外線による光老化でできるので、日光に当たりやすい顔、首、手の甲、頭などによく見られますが、手のひらを除くあらゆる部分にできます。
最初は1~2㎜と小さかったり、シミのように平らだったりしますが、ゆっくりと大きくなって隆起し、2~3㎝になることもあります。良性腫瘍なので必ずしも治療の必要はありませんが、審美的に気になる、痒い、引っかかって痛いなど生活に支障が出る場合には治療を受けてください。
【治療法】
腫瘍を蒸散させて皮膚表面からごく浅く削り取る方法で行います。傷はごく浅く、出血もないので傷あとをほとんど残さず治せます。
7~8㎜を超えた場合には、傷あとが残らないように、分割して処置します。老人性イボは老けた印象を与えてしまうので、すべて除去すると肌が明るくなり、ツルツルしてハリが出ると満足度の高い施術です。
保険適応の治療では、液体窒素で凍結させ、組織を物理的に壊して除去する方法もありますが、1度にとれないことが多く、治療後に黒ずみが強く残りやすいいので、綺麗に取りたい方にはあまりおすすめできません。
■ ほくろ(色素性母斑・母斑細胞性母斑)
神経提に由来する、メラノサイトやシュワン細胞のどちらにもなりきれない母斑細胞が皮膚で増殖したものが、いわゆる「ほくろ」です。メラニン色素をつくる働きを持つものが多く、増殖する皮膚の深さやメラニン色素の量によって、ほくろの見た目や形態は異なります。黒や褐色で平らなものから、盛り上がったイボのようなもの、色の無いものまであります。
足の裏のほくろは、初期の悪性黒色腫と見分けがつきにくい場合もあるので、疑わしいと思ったら診察を受けましょう。
【治療法】
切除縫合術は保険適応ですが、小さなホクロの場合は、『CO2レーザー手術』がおすすめです。老人性イボと同様、患部を蒸散させて切除しますが、ほくろは真皮内に深く広がっていることも多いので、数回の処置が必要なことが多いです。
小さいうちにとると傷あとが目立ちません。7~8㎜以上のものは2~4分割して段階的に除去します。
2. 皮膚にできる"その他のできもの"
■ 稗粒腫(はいりゅうしゅ)
女性の顔にできることが多いボツボツした白い小さな粒状の良性腫瘍です。稗のような白い粒状で、できやすい体質の方は、数十個できるケースもあります。目周りに生じることが多いほか、頬、額、陰部、傷痕にも発生します。
【治療法】
真皮の浅い部分にできた袋状の腫瘍なので、浅いものは、針で小さく傷を付けて袋を押し出します。深くて大きなものは『CO2レーザー』で穴をあけて、除去しますが、ほくろの術後に稗粒腫が出来ることがあるように、傷にしたことがきっかけで新たに出現することもあります。
■ アクロコルドン(軟性線維腫)
主に30代以降の成人に見られる肌色から褐色の柔らかい良性腫瘍です。肥満体型の人や女性に多く、わきの下や首、胸、そけい部など摩擦が多い部分にできやすいのが特徴です。
【治療法】
液体窒素による凍結療法は保険適応ですが、色素沈着を生じやすくおすすめできません。小さなものは医療用ハサミによる切除が綺麗に除去できますが、ある程度の大きさのものは、『CO2レーザー』で治療するのがおすすめです。
■ 老人性血管腫(cherry angioma)
血管由来の1~4㎜ほどの血豆のような赤い良性腫瘍です。病理像は、毛細血管が拡張、増殖しています。平らなもの~隆起したものがあり、胸や背中、おなかなど体幹にできやすいですが、顔、四肢含め全身に出ます。成人後に発症し、妊娠や加齢とともに増えます。
【治療法】
当院では、ヘモグロビンの赤に反応する『ロングパルスNd:YAGレーザー』を高出力でスポット照射して、6㎜以下の小さな血管腫は削らずに治療しています。大きなものは『CO2レーザー』を併用することもあります。
■ 汗管腫
汗を出すエクリン汗管が腫瘍性に増殖して生じます。まぶたやその周囲にできやすいほか、額、胸もと、首、腹部などにもできます。半米粒大ほどの黄色や肌色の粒々とした丘疹です。
【治療法】
『CO2レーザー』や高周波メスで腫瘍を削って除去しますが、個数が多いと傷痕がしばらく赤く目立ちます。色が無いので腫瘍の境界が分かりにくく、取り残した部分が再発することが多いです。夏季に目立つ場合は、『ボトックス注射』を行う場合もあります。
3. 高齢化で増えている?見逃しやすい皮膚がんとは?
ほくろや湿疹などと間違えやすく、"できもの"だと思っていたら「皮膚がん」だったということは少なからずあるので、注意が必要です。皮膚がんにはさまざまな種類があり、中でも特に頻度が高いのが「基底細胞がん」です。ほかにも「悪性黒色腫(メラノーマ)」や皮膚がんの前段階の「日光角化症」などがあります。
■ 基底細胞がん
日本人で最も発生頻度の高い皮膚がんです。皮膚の表皮の最下層にある基底層や毛包などを構成する細胞から発生すると言われています。80%以上が顔に見られ、初期は小さな黒い斑点なのでほくろと勘違いしがちですが、表面が光沢を帯びているのが特徴です。転移することはわずかで、手術で切除すれば完治することがほとんどです。
【治療法】
切除手術、欠損部が大きい場合は皮弁術・植皮術も併用。
■ 日光角化症(老人性角化症)
紫外線によって生じる皮膚がんの前段階病変(癌前駆症)です。こめかみや頬、鼻の頭など露光部にできやすく、病名の通り角化してカサカサした紅斑で、湿疹と勘違いされる場合もあります。イボ状の丘疹、皮角と呼ぶ隆起を伴う場合もあります。
【治療法】
20~25%が有棘細胞がんに進展するので、早めに治療が必要です。切除手術、CO2レーザー手術、冷凍凝固法、抗腫瘍剤の概要などを行います。
■ 有棘細胞がん
表皮の有棘細胞が異型化した予後不良な皮膚がんです。基底細胞がんに次いで発生頻度が高い皮膚がんです。白人の裸露部に好発し、日本人には少ないですが、高齢化やライフスタイルの変化で増えていると言われています。結節、潰瘍、カリフラワー状に増殖し、特有の悪臭を放ちます。
【治療法】
切除手術、欠損部が大きい場合は植皮術も併用。
■ ボーエン病(Bowen病)
表皮の有棘細胞が癌化し、表皮内に留まっている状態(表皮内癌)です。湿疹と見分けにくいので、治りにくい湿疹は皮膚科専門医の診察を受けてください。この状態で治療すれば予後は良好です。
【治療法】
切除手術、欠損部が大きい場合は植皮術も併用。
■ 悪性黒色腫
メラニンを作るメラノサイト1という細胞が癌化したもので、非常に悪性度の高い皮膚がんです。紫外線の影響を受けやすい白人で発生頻度が高く、日本人では10万人当たり1~2人と言われています。
皮膚や爪囲に黒いシミや盛り上がったほくろのような形で現れ、徐々に増大するのが特徴です。日本人は足指や足の裏に最も多く、濃淡、いびつな形態、境界不明瞭、急速な増大などは注意すべきサインです。
■ 悪性黒色腫
切除手術。真皮内に浸潤すると化学療法も併用。
●皮膚がんのセルフチェック
できもののうち、以下に当てはまるものがないかチェックしてみてください。チェックのつくものがあれば、一度皮膚科専門医の診察を受けてみられることをおすすめします。
・治らない湿疹
・ものすごく黒い
・ひきつれている感じがする
・境界線があいまい
・急激に大きくなる
・左右非対称
・くずれて非対称になる
少しでも気になる症状があれば、早めに皮膚専門医に相談してくださいね。